法水がクリヴォフ夫人に猶太人虐殺を試みて、しきりと十二宮秘密記法の解読をしている頃だった。一方私服の楯で囲まれている黒死館では、その隙をどう潜ったものか、世にもまたとない幻術的な惨劇が起ったのである。それが二時四十分の出来事で、当の被害者クリヴォフ夫人は、ちょうど前庭に面した本館の中央――すなわち尖塔のまっすぐ下に当る二階の武具室の中で、折からの午後の陽差を満身に浴びながら、窓際の石卓に倚り読書していた。すると、突然背後から何者かの手で、装飾品の一つであったフィンランダー式火術弩が発射されたのだが、運よくその箭は、彼女の頭部をわずかに掠めて毛髪を縫った。そして、その強猛な直進力は、瞬間彼女を宙に吊り、そのまま直前の鎧扉に命中したので、その機みを喰って、クリヴォフ夫人は鞠のように窓外に投げ出されたのだった。しかし、その刺叉形をした鬼箭が、確かと棧の間に喰い入っていたので、また後尾の矢筈に絡みついている彼女の頭髪も、これまた執拗に離れなかったので、夫人の身体はその一本の矢に釣られて宙吊りとなり、しかも、虚空の中でキリキリ独楽のように廻転を始めたのであった。薬剤師転職サイト 薬剤師求人ランキング【薬剤師求人・転職サイトの選び方】
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