婆は鴫沢の前にその趣を述べて、投棄てられし名刺を返さんとすれば、手を後様に束ねたるままに受取らで、強ひて面を和ぐるも苦しげに見えぬ。
「ああ、さやうかね、御承知の無い訳は無いのだ。ははは、大分久い前の事だから、お忘れになつたのか知れん、それでは宜い。私が直にお目に掛らう。この部屋は間貫一さんだね、ああ、それでは間違無い」
 屹と思案せる鴫沢の椅子ある方に進み寄れば、満枝は座を起ち、会釈して、席を薦めぬ。
「貫一さん、私だよ。久う会はんので忘れられたかのう」
 室の隅に婆が茶の支度せんとするを、満枝は自ら行きて手を下し、或は指図もし、又自ら持来りて薦むるなど尋常の見舞客にはあらじと、鴫沢は始めてこの女に注目せるなり。貫一は知らざる如く、彼方を向きて答へず。仔細こそあれとは覚ゆれど、例のこの人の無愛想よ、と満枝は傍に見つつも憫に可笑かりき。
「貫一さんや、私だ。疾にも訪ねたいのであつたが、何にしろ居所が全然知れんので。一昨日ふと聞出したから不取敢かうして出向いたのだが、病気はどうかのう。何か、大怪我ださうではないか」
 猶も答のあらざるを腹立くは思へど、満枝の居るを幸に、
「睡てをりますですかな」
「はい、如何でございますか」
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