座敷外に脱ぎたる紫裏の吾妻コオトに目留めし満枝は、嘗て知らざりしその内曲の客を問はで止む能はざりき。又常に厚く恵るる老婢は、彼の為に始終の様子を告るの労を吝まざりしなり。さてはと推せし胸の内は瞋恚に燃えて、可憎き人の疾く出で来よかし、如何なる貌して我を見んと為らん、と焦心に待つ間のいとどしう久かりしに、貫一はなかなか出で来ずして、しかも子亭のほとほと人気もあらざらんやうに打鎮れるは、我に忍ぶかと、弥よ満枝は怺へかねて、
「お豊さん、もう一遍旦那様にさう申して来て下さいな、私今日は急ぎますから、些とお目に懸りたいと」
「でも、私は誠に参り難いので御座いますよ、何だかお話が大変込入つてお在のやうで御座いますから」
「かまはんぢやありませんか、私がさう申したと言つて行くのですもの」
「ではさう申上げて参りますです」
「はあ」
 老婢は行きて、紙門の外より、
「旦那さま、旦那さま」
「此方にお在は御座いませんよ」
 かく答へしは客の声なり。豊は紙門を開きて、
「おや、さやうなので御座いますか」
 実に主は在らずして、在るが如くその枕頭に坐れる客の、猶悲の残れる面に髪をば少し打乱し、左の※の二寸ばかりも裂けたるままに姿も整はずゐたりしを、遽に引枢ひつつ、
「今し方其方へお出なすつたのですが……」
「おや、さやうなので御座いますか」風俗アルバイト 体験入店 鵜のまねする烏
書き込みはまだありません。