「俺の事だ お静……手前はそんな事を言つて、それで済むと思ふのか」
「済んでも済まなくても、貴方が水臭いからさ」
「未だそんな事を言やがる! さあ、何が水臭いか、それを言へ」
「はあ、言ひますとも。ねえ、貴方は他の顔さへ見りや、直に悪縁だと云ふのが癖ですよ。彼我の中の悪縁は、貴方がそんなに言なくたつて善く知つてゐまさね。何も貴方一箇の悪縁ぢやなし、私だつてこれでも随分謂ふに謂れない苦労を為てゐるんぢやありませんか。それを貴方がさもさも迷惑さうに、何ぞの端には悪縁だ悪縁だとお言ひなさるけれど、聞される身に成つて御覧なさいな。余り好い心持は為やしません。それも不断ならともかくもですさ、この場になつてまでも、さう云ふ事を言ふのは、貴方の心が水臭いからだ――何がさうでない事が有るもんですか」
「悪縁だから悪縁だと言ふのぢやないか。何も迷惑して……」
「悪縁でも可ござんすよ!」
 彼等は相背きて姑く語無かりしが、女は忍びやかに泣きゐたり。
「おい、お静、おい」
「貴方きつと迷惑なんでせう。貴方がそんな気ぢや、私は……実に……つまらない。私はどうせう。情無い!」
 お静は竟に顔を掩うて泣きぬ。福山 歯科 huzake | Startseite
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