話が、えらく横丁の方へ這入つて居たが、扨、俺等が、此の自治寮に持つて来られた、と直ぐ分れ/\にされて、俺は北寮と云ふ処に行く事となつた。此所にも俺の仲間が五つ計り居つたが、一処に集つて居る事の出来ないのが、俺等の性分なので、一ツ/\離れて、そして、明けても晩れても、ヂツとして居るのだ。嗚呼、俺とイツシヨに持つて来られた連中は、今頃、何処にどーして居るだらうと思ふと、さすがに初旅の、心細くないでも無かつた。それに、俺等の役目は夜働くので、盗棒では無いよ、夜と云へば、総ての物は皆、地平線下に這入つてしまふ時だのに、物好きにも、一人起きてゐるのかと思へば、つく/″\、人間が恨めしい。何だつて、俺等を夜働かせるのは、人間がそーさせるからだもの。人間位、悪好者な者はない。しかも、針の穴程の知恵を持つて居て、それで、自惚加減と来たら、まるで、御話しにならない奴さ。第一人間を製造する事が出来ない様な知恵で以て、それで万物の霊長とはどーした者だ。動物には理性が無いだの、猿には毛が三本足りないだの、大きな御世話だ。乃至、鳥は空を飛ぶ物だの、飯は食ふものだの、しかも俺等の仲間は生命なきもの、意識なきもの也と、抜かすではないか、チヤンチヤラ可笑しくつて、御臍が御茶を湧かして、煮えてこぼれてしまふは、人間が勝手にこしらへた、一人ヨガリの理窟とか、道理とか云ふものを見給へ、こんな、愚にも付かん事が、よく云はれた物さ。俺見たいな物でも思ふね。

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