『海底戰鬪艇の生命とは。』と、私は審つた。
『十二の樽です。君も御存じの如く、海底戰鬪艇の總ての機關は、秘密なる十二種の化學藥液の作用で活動するのでせう、其活動の根源となる可き藥液は、盡く十二の樽に密封されて、造船所内の一部に貯藏されてあつたのだが、あゝ、昨夜の大海嘯では其一個も無事では居るまい、イヤ、决して無事で居る筈はありません。』
『え、え、え。』と、初めて此事に氣付いた吾等一同は、殆ど卒倒するばかりに愕いた。大佐は深き嘆息を洩して
『恐らく私の想像は誤るまい、實に天の禍は人間の力の及ぶ處ではないが、今更斯る災難に遭ふとは、實に無情い次第です。今、十二の樽が盡く流失したものならば、海底戰鬪艇の神變不思議の力も、最早活用するに道が無いのです。丁度普通の蒸※船に石炭の缺乏したと同じ事で、波上に停止したまゝ、朽果つるの他はありません。勿論、電光艇には試運轉式の時に積入れた發動藥液が、今も多少は殘つて居るが、艇に殘つて居る丈けでは、一千海里以上を進航するに足らぬ程で、本島から一千海里といへば此處から一番に近いあの人煙の稀なるマルダイ群島の一つ橄欖島の附近までは到達する事は出來ませうが、橄欖島へ達した所で何にもならない、却て其處で、全然進退の自由を失つたら夫こそ大變、自ら進んで奇禍を招くやうなものです。橄欖島は荒凉たる島、とても其種の發動藥液を得る事は出來ず、其他の諸島、又は大陸に通信して、供給を仰ぐといふ事も、决して出來る事では無いのです。

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