「そんならいゝわ、わたしどこまでもついて行くから。そしてお金の出来る間待つてゐるから」と、娘は私が相当に金の用意がしてあると思つたらしく、離れた小さな眼に剛情な色を見せて云ひ出した。
「そんならさうしなさい。しかし僕はこれから御殿場の方へ行くつもりなんだぜ。それでもいゝかね?」
「よござんすわ。うちでもさう云つてよこしたんですから、構はないわ」
 その晩は泊つて明朝発つつもりだつたのだが、相手になつてるのがうるさくなつて、私はかなり酔つてもゐて大儀だつたが、宿の勘定を済まして外へ出た。斯うは云ひ張るものゝまさか娘は汽車までついて来るやうなこともあるまいと私はたかをくゝつて歩るきながら冗談など云ひかけたが、娘の様子が真気らしくもあるので、私は少し怖くなりかけた。東京行きの汽車が間もなくやつて来た。汽車の音を聞きながら、
「ほんとに行く気なんか?」と、私は念を押さずにゐられなかつた。
「ほんとですとも。あなたが帰つて下さらないんですもの……」と、娘は泣き出しさうな顔しながらも、思ひ詰めた眼付を見せて云つた。
「ぢやあ二枚買ふよ」
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