新調の羽織を着て、小さな身体に袴を引摺るように穿いた笹川は、やはり後ろに手を組んだまま、深く頭を垂れてテーブルと暗い窓の間を静かに歩いていた。
 明いていた入口から、コックや女中たちの顔が、かわるがわる覗きこんだ。若い法学士はというと、彼はこの思いがけない最後の――作家なぞという異った社会の悲喜劇? に対してひどく興味を感じたらしく、入口の柱にもたれて皆なの後ろから、金縁の近眼鏡を光らして始終白い歯を見せてニヤリニヤリしていた。……
 私はひどく疲れきって下宿に帰って、床につくとすぐ眠ることはできた。しかし朝眼が醒めてみると、私は喘息の発作状態に陥っていた。昨夜の激情が、祟ったのだ。
 雨が降っていた。私はまず、この雨の中を憤然としてトランクを提げて東京駅から発って行ったであろう笹川の姿を、想像した。そして「やっぱし彼はえらい男だ!」と、思わずにはいられなかったのだ。
 私は平生から用意してあるモルヒネの頓服を飲んで、朝も昼も何も喰べずに寝ていた。何という厭な、苦しい病気だろう! 晩になってようよう発作のおさまったところで、私は少しばかりの粥を喰べた。梅雨前の雨が、同じ調子で、降り続いていた。探偵 料金 http://www.itamu.de.rs/
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