「ははあ、あなたはまだ彼らのことをお聞きになっていないんですね」と、商人は言った。「彼らのことを聞かされたあとで、しばらく彼らのことを夢に見ないような被告というのは一人もありません。だがあなたは、むしろそんな誘惑にかかってはなりません。大弁護士が何者かは、私は知りませんし、彼らのところへ近づくことはきっと誰にもできないのです。彼らが手がけたとはっきり言えるような事件を、私は知りません。かなりの被告を弁護はするんですが、被告の意志ではどうにもならないし、彼らが弁護しようと思う者たちだけを弁護するんです。だが、彼らが引受ける事件というのは、きっと下級裁判所を超えたものにちがいありません。ともかく、彼らのことを考えないほうがよいでしょう。そうでないとほかの弁護士との話や彼らの忠告や尽力というものがきわめていとわしく、無益なものと思われるからです。いっさい投げ出してしまって、家でベッドに寝ころび、何も聞かないでいるのがいちばんいいと思うようになるっていうことは、私自身経験ずみです。しかし、これもまたもちろんばかげたことでして、ベッドに寝ていていつまでも安閑とできるもんじゃありません」
「それじゃあ、あなたはその当時大弁護士のことは考えなかったんですか?」と、Kはきいた。 薬剤師国家試験対策 予備校 第84回薬剤師国家試験
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