「長くは考えませんでしたが」と、商人は言い、また薄笑いした。「残念ながらすっかり忘れることはできませんし、ことに夜にはこんな考えがとかく浮んできましてね。しかし、当時私は即効をあげることを望みましたんで、三百代言のところへ行ったんです」
「まあ、こんなところにくっついてすわって!」と、盆を手にしてもどってきて、扉のところに立ったレーニが、言った。
 確かに二人はひどくくっついてすわり、少し身体の向きを変えても頭をぶっつけ合ったにちがいなく、もともと小柄なところへもってきて背中を曲げている商人は、Kにも、すべてを聞き取ろうとすると、身体を深くかがめさせるのだった。
「もう少し待って!」と、Kはレーニに拒むように叫び返したが、まだ依然として商人の手の上に置いていた手を、いらだたしそうにぴくぴくさせた。
「この方が私の訴訟の話を聞こうとおっしゃるんだよ」と、商人はレーニに言った。
「さあお話しなさい、お話しなさい」と、女は言った。女は商人と愛情をこめて話すが、また見下げた様子が見られ、これがKの気にさわった。今ではわかったのだが、この男はやはりある値打ちがあるし、少なくも経験を持ち合せており、それをうまく話すことができるのだ。レーニはどうもこの男を不当に判断している、そう思った。彼は、商人が長いあいだしっかと持っていた蝋燭をレーニが商人の手から取上げ、エプロンで手をふいてやり、蝋燭からズボンに垂れたいくらかの蝋をかき取ってやるため商人のそばにひざまずくさまを、腹だたしげに見ていた。 歯科医師国家試験対策 予備校 25年 医師・歯科医師国家試験結果 - 旺文社 教育情報センター
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