海洋通りをグランド・ホテルのほうに歩いてみた。倉地が出て来れば、倉地のほうでも自分を見つけるだろうし、自分のほうでも後ろに目はないながら、出て来たのを感づいてみせるという自信を持ちながら、後ろも振り向かずにだんだん波止場から遠ざかった。海ぞいに立て連ねた石杭をつなぐ頑丈な鉄鎖には、西洋人の子供たちが犢ほどな洋犬やあま[#「あま」に傍点]に付き添われて事もなげに遊び戯れていた。そして葉子を見ると心安立てに無邪気にほほえんで見せたりした。小さなかわいい子供を見るとどんな時どんな場合でも、葉子は定子を思い出して、胸がしめつけられるようになって、すぐ涙ぐむのだった。この場合はことさらそうだった。見ていられないほどそれらの子供たちは悲しい姿に葉子の目に映った。葉子はそこから避けるように足を返してまた税関のほうに歩み近づいた。
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